先日広島市で行われた日本皮膚科学会総会に参加してきました。
今回も色々な学びがあり、自分の日々の業務に役立つ内容で印象に残ったものを振り返りたいと思います。
学会は最も効率のよい最新知識習得の場だとつくづく感じます。雑誌や教科書に載る前の最前線の知識がたくさん降ってきますから。少しでも日常の診療に活かしたいです。
学んだ内容の羅列のため、同業者の方以外はわかりにくくてすみません。
●ホクロ除去の件
このテーマをレクチャーする先生方は自分の経験に基づいたとても分かりやすい説明をされるのでいつも非常に勉強になります。
・炭酸ガス(CO2)レーザーの使用時、長いパルス幅は短いものより焼いた部位の熱変性部位が広くなる。
・局所麻酔はホクロの中にうつと焼いたときの炭化層が減る。しかし痛い。
・ホクロの細胞は、年齢とともに浅いところ(表皮)から深いところ(真皮)に入り込み、そこで増殖するため、ホクロ自体が膨らんでいき、最後にはただの盛り上がり(fibrous papule )になる。
・鼻と唇の間のホクロを除去すると動く部位のためか傷痕盛り上がりやすいので、ピタシートを夜だけ貼る方法もよい。ボトックス注射をその部位にうち、動きを抑制し傷痕を盛り上がえりにくくする方法もある。
・盛り上がっているかなり大きめのホクロはサージトロンで焼くとよいが、深く焼き過ぎず薄い台形の痂皮が出るくらいがちょうどよい。
・エクリン汗腺は真皮の下限にあり、それが皮膚再生の原基になるため、全切除の際はエクリン汗腺が残っていると瘢痕が残りにくい。
・深部まであるホクロは2回に分けてとるのもよい。色素を残すならホクロの色素が一番深い中央部を残す。残された真皮内の色素が皮膚表面に上がってくる可能性があるので。色素が上がってきているのではなく真皮自体が皮膚表面に上がっている可能性もあり。
・炭酸ガスレーザーで焼灼する際、皮膚の薄いところは皮膚を突き抜ける深さまで焼き、厚いところは浅いところだけ焼く。
・ホクロを炭酸ガスレーザーで焼灼する際は、レーザーの先を常に動かし続け、最後は二回りくらい広く削り辺縁をぼかすとよい。
・15mmくらいのホクロでも炭酸ガスレーザーでとれる。
・メスによるホクロくり抜き法は、傷の穴を収縮させるのが目的で、炭酸ガスレーザーは収縮させないのが目的である。レーザー後の色素沈着や赤みは必ずなくなる。
・ホクロをとったあとが盛り上がったらステロイド局所注射を行う。再レーザー照射を行ってもそこには傷痕が盛り上がる土壌があるためまた盛り上がる。
・ホクロの毛が残ったら、ロングパルスYAGレーザーを毛の生えている部位に照射するかサージトロンの針で焼くとよい。
・除去の際、ホクロそのものにE入りキシロカインをうつと出血が減る。
- 男性型脱毛症・女性薄毛の件
・プロペシアを内服していて、肝障害を起こす人は800人に1人。
・プロペシアを内服していると、テストステロン(男性ホルモン)自体は増える。
・赤色LEDは低出力レーザーと同じようなものであり、赤い色は毛乳頭まで届く。
・閉経した女性で、薄毛の治療選択肢が他になければフィナステリド、デュステリドが効く人もいる。
- アレルギー検査の件
検査法全般についての復習を受けたのですが、かなり勉強になりました。
・接触皮膚炎と自家感作性皮膚炎の違いは、前者は原病の紅斑と同じような紅斑が多発、後者は原病の紅斑周囲にぱらぱらした丘疹が加わることが多い。
・外用ステロイドであるアンテベート、メサデルムの後発医薬品には、クロタミトン(≒オイラックス)が混じっている。
・clesedパッチテストの判定においては、紅斑だけでなく、その紅斑に触って立体感があれば陽性とする。
・金属アレルギーは、金属イオンに対するアレルギーである。
・ピアス後の結節は、表皮で溶出しにくい金も真皮では溶出しやすいことが一因。難治性のピアス後結節では、その中に金がとどまっていることが多い。
・亜鉛・マンガン・パッチテストパネルの金は、パッチテスト判定において紅斑がなく丘疹だけの場合は陽性ではなく単なる刺激反応とみなす。
・蕁麻(イラクサ)urtica thunbergianaがじんましんの語源。
・薬疹の検査において、薬と血液との反応をみるDLSTは、スティーブンスジョンソン症候群では早期に、DIHS(薬剤過敏性症候群)では後になってから陽性になりやすい。
・薬疹の検査は、基本的には使えない薬を調べる検査である。使える薬に太鼓判を押す検査ではない。
・膠原病の採血検査において、抗細胞質抗体のみ陽性の人は、抗核抗体陰性と出る。
・抗核抗体は40倍で陽性と考えるが、40倍だと通常健常人でも20%の人が陽性となる。陽性なら核内の染色パターンを調べる。
- その他
・超音波検査において、elastogarphyは柔らないところが赤く見える。
・超音波検査において転移性リンパ節は円形に見えるのに対し、普通のリンパ節は扁平。普通は(長径÷短頚)が2以上。
・壊疽性膿皮症の病勢はクローン病・潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患(IBD)の活動性とは一致しない。
・肝機能が低下するとエストロゲンの代謝も低下し、それが血管拡張につながる。
・デュプイトラン拘縮にはザイヤフレックス(コラゲナーゼ)局注が効く。
・血管・血小板の異常による紫斑(内出血)は小さくて浅い部位にある。凝固系の異常による紫斑は大きくて深い部位にある。
・尋常性疣贅に対するDPCP、SADBE等の局所免疫療法は推奨度B。
・ウイルス性疣贅に対する治療は一つの治療で3ヶ月くらいを目安に評価する。
・汗孔角化症における辺縁の茶色の枠は、cornoid lamella。
・尋常性乾癬に対するアプレミラスト内服を中断する人は嘔気で中断する人が最も多い。下痢が出たら薬を休むか減らす。
その他にもたくさんの話題がありましたが、自分の中で興味のある大事な部分は述べましたので、この辺で終わりにしたいと思います。
学会で学んだ内容については、本来「受けた」知識だけでなく自分がそれをどう感じ考えたかも書くべきなのですが。
インプットだけでなく自分の中・外のアウトプットが大事ですね。
学会中見れなかった教育講演がしばらくするとWebで見れるのでとても楽しみです。
学会当日は見たい講演が結構重なるので、便利でよいシステムだと思います。
今回の学会では学会会場内に皮膚の構造内部や原爆投下直後の広島市内を見るVR(仮想現実)のコーナーがあり、まるで皮膚の構造の中や昭和20年の広島市内にいるような錯覚を受けました。
VRは初めて試みましたが、かなりの臨場感がありますね。まるでその場に立っているかのようです。お見せできないのが残念です。
学会の日は「とうかさん」というお祭りの日と一緒で、広島市内は浴衣の女性であふれていました。生まれて初めて路面電車に乗りました。どきどきですね。
自分はインドアでかなり出不精な人間なので、たまに遠くへ出かけるととても刺激を受けます。
尊敬する素敵な先輩と懐かしく楽しい再会もありました。昔東北の街を二人で歩いたシーンを思い出しました。頭がよい人はやはりいつまで経っても隙がない人生を送り続けるものだなと感じました。一緒に過ごした若手時代を思い出しつつ、自分もこれから何とか頑張って近づけるよう成長せねばと感じた次第です。
学会会場であるリーガロイヤルホテルは平和記念公園から近いところにあり、学会が終わってから最後に平和記念公園と原爆ドームをまわりました。
小学生時代に読んだ『はだしのゲン』を思い出しました。小学生時代の僕にはとても恐い漫画で、読むのを一旦中断したくらいでしたが、また全巻読んでみたいという気持ちになりました。
あの漫画の登場人物では、ゲンのお父さんが一番印象に残っています。
一体誰があの戦争を起こしたかったのかを他の人に伝える場面と、日本以外のアジア諸国の人たちを差別して馬鹿にしていた子供達を強く叱りつけるシーンが印象に残っています。
ゲンのお父さんのように、全体主義の流れに屈しない、強く正しい心をもちたいものです。
広島は無意識にでも訪れた人々に否応なしに色々な物事を考えさせる土地なのだと思います。
平和記念公園内は欧米人観光客の方がかなり多かったです。
日本人観光客に説明をしていたガイドの方の話が僕にも聞こえてきましたが、地球上から核兵器がなくなるまで、平和公園の火は消えないようです。
近々、話題の某国代表同士が歴史的会談をするようですが、大昔の日本も今の日本も関係している件であり、少しずつでも平和に近づくことを願っております。