皮膚科でよく診られる疾患であるアトピー性皮膚炎において、患者さん自身今の自分の状態がどの程度よいのか悪いのか把握されてない方が多いようです。
治療につきましては、皮膚の赤み、ひっかき傷、手で触れたときの硬さ、痒みの全てがなくなるまで塗り薬をしっかりと使っていただきたいというのが本音です。
しかし、多くの方は少し痒みがなくなると塗るのをやめてしまうような印象があります。
子供の頃からアトピーをお持ちの方は、自分の皮膚の外観を見慣れてしまうという点もあるのではと感じています。
しかし、皮膚の外観については、適切な期間の外用を続けることで患者さんが思っておられるより大きな改善が認められます。
その適切な期間を知るために必要なものの一つが採血検査になります。
自分の自覚症状だけでなく、客観的な指標で自分の皮膚症状の現在地を知ることが大事になります。
そこで、今回はアトピー性皮膚炎でよく行う採血検査について述べたいと思います。
まず結論から申し上げますと、採血検査で調べられる血清TARC値が最も重要な指標になります。
TARCとは、主に病変部の表皮角化細胞から産生される物質で、リンパ球という炎症細胞を患部へ遊走させます。
これを調べると炎症を引き起こすリンパ球がどの程度働いているのか分かるわけです。
TARCとは、thymus and activation-regulated chemokine の略です。胸腺と活性化制御ケモカイン、とでも訳すのでしょうか。
この項目は、アトピー性皮膚炎と健常者を見分けるための最も精度が高い検査で、アトピーの短期的な病勢を最も鋭敏に反映します。
その他の項目では、末梢血好酸球数と血清LDH値は短期的な病勢マーカーとして、血清総IgE値は長期的な病勢マーカーとして用いられています。
TARC値を定期的に調べることで、治療の緩急のつけ方が分かるのです。
つまり、皮膚症状が軽快し、さらに血清TARC値が基準値内まで低下してから外用量の減量または外用間隔の延長を行うと、より確実に寛解導入を行うことができます。
私は常々、患者さん自身にも客観的な治療目標をもってもらいたいと思っています。
治療のモチベーションが上がりますので。
治療をしっかり行えば、たいていの方は今より皮膚の赤みや黒ずみが減ります。
血清TARC値含め、上記採血のほとんどは保険診療範囲内で検査できますので、どうぞお気軽にご相談ください。
(アトピー性皮膚炎Q&A55初版 診断と治療社 P115より拝借した図ですが、皮膚症状は血清TARC値と最もよく相関しています。この値が高いうちは、自分では症状がよくなったと思っていても、外用剤をしっかり塗らないといけないということですね。)